2010年12月16日 (木)

ウィキリークス情報漏えいの米外交政策への影響と日本

(WEBRONZA12月16日掲載:http://webronza.asahi.com/

 外交の本質とは、元外務次官の小和田恒氏の言葉を借りれば、「国益をかけた戦いに武力という手段を用いることなく、知識、洞察力、判断力、説得力、その他あらゆる全人格的な能力を結集して国益をかけて戦う真剣勝負」である。つまり外交とは、国家間の国益をかけた戦いそのものであり、「武力」に代わるパワーの源泉が「情報」なのである。その意味において、ウィキリークスによる情報漏えいは、その「情報」の力としての「量と質」が暴露された点において、米国の外交にとっては大きな打撃である。

 もちろん、国家間の権力争いが存在するかぎり、今後も国益をかけたインテリジェンス活動や、それに対抗するカウンターインテリジェンス(情報を守る防諜)がなくなることはない。ましてや、今回のウィキリークスのように、国家秘密を暴くような活動がこの世から消えることはないし、むしろそうあってはならないのである。

 

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2010年12月 6日 (月)

中間選挙で変わる米国の環境政策

(WEBRONZA12月6日掲載:http://webronza.asahi.com/

オバマ政権の「グリーン・ニューディール(GN)」に代表される環境政策は、中間選挙での大きな争点にはならなかったものの、選挙での大敗が今後の地球温暖化対策等に大きな影響を与えることは必至である。すなわち選挙を通じて、GNに限らずオバマ政権の政策が必ずしも経済成長や雇用の創出に貢献していない、という判断がくだされ、今後は財政の大幅な支出増につながる政策の実行は難しくなったからである。

 中間選挙では、過去の議論経過に拘らない新人議員が多数増え、連邦政府の支出拡大や規制を嫌う「ティーパーティー(茶会)」が勢力を増した。共和党新人議員の半数程度(ある調査によれば、98人中43人)は、地球温暖化問題の存在そのものを懐疑的に見ていると言われ、また温暖化ガス削減の目玉政策である「キャップ・アンド・トレード」に反対している議員が多く当選した。ティーパーティーの支援を受けてフロリダ州上院選に当選したルビオ氏は、「地球温暖化を正当化する科学的根拠があるとは思えない」と明確に述べている。

 

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2010年3月23日 (火)

大統領生命を掛けた医療保険改革に一応の決着

米下院は21日夜、上院で可決し若干の修正を加えた「医療保険改革法案」を賛成219、反対212の賛成多数で可決、今週開催される上院での投票(Reconciliationを呼ばれる調停プロセス)を経て成立する見込みとなった。この医療制度改革は、米国政治100年の課題であり、1965年のメディケア(高齢者向け公的保険)及びメディケイド(低所得者向け公的保険)以来の大きな保険制度改革となる。しかし社会保障の根幹である医療制度の重要な政策決定に野党議員のみならず、民主党議員34名が反対に回った。念願の国民皆保険に近い制度改革という評価はできるものの、多くの人に祝福された新制度の誕生とはならず、国民の間にも亀裂を残すことになった。

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2010年3月 3日 (水)

リコール問題で露呈したトヨタが失ったもの

トヨタのリコール問題は、豊田章男社長が出席した下院での公聴会に続き、3月2日、上院でも開催され、大きな峠を越したものと思われる。ここで峠という意味は、政治家やアメリカ・メディアによるトヨタたたきであり、国民の関心の高さである。しかし、これで問題がスムースに解決する方向に向かうとは限らない。全米各地では損害賠償を求める訴訟が数多く起きている。連邦大陪審はトヨタに資料提出を求めるなど、司法当局も動き出した。連邦捜査局(FBI)は、直接的な関係はないとしながらも、公聴会の開催とあわせて、トヨタとも関係の深い日系自動車部品メーカーを反トラスト法違反の疑いで捜査を開始した。今後も対処の仕方を間違えると、この問題は思わぬ方向に行きかねない。

振り返れば、過去にも品質問題では、食品偽装や三菱自動車のリコール隠し等、企業存続の危機に至った事例は数多くあった。さすがに品質重視のトヨタは、取引先が泣くほど品質管理の厳しさには定評があり、このような問題の対極に位置する企業だと思っていた。しかし期待は見事に裏切られた。ここには、他社事例はあくまで他社のことであって、その教訓を自らの企業経営に生かせないという、企業の本質的課題が浮き彫りになった。

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2010年2月 9日 (火)

ティーパーティ運動はアメリカ保守の逆襲か

アメリカ人にとって「ティーパーティ」とは、政治的抗議(political protest)の象徴である。これは言うまでもなく、1773年12月、イギリス政府が押し付けた茶税に反対し、植民地の住人がボストン湾に停泊中の東インド会社船の積荷である茶を海に投げ捨てた「ボストン・ティー・パーティ(ボストン茶会事件)」に由来するものであり、この事件が発端で後にアメリカ独立戦争が勃発した。

今回の「テイーパーティ」の舞台の中心はワシントンである。オバマ大統領の大規模な景気刺激策や医療保険改革に代表される「大きな政府」政策に反対する草の根運動が全国的な保守主義運動に発展した。その切っ掛けの一つは、昨年2月19日、CNBCのコメンテーター、リック・サンテリ氏がシカゴの取引所において、住宅差し押さえ救済策に異議を唱え、それがYouTube http://www.youtube.com/watch?v=bEZB4taSEoA)等を通じて広がったことであると言われている。

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2009年11月30日 (月)

日米関係を決める米中関係の深まり

日本、中国等のアジア歴訪を終え帰国したオバマ大統領は、間髪を入れずに今度はホワイトハウスにて、訪問できなかったインドのシン首相を政権初の国賓として向かえ、米印首脳会談を行った。アジアの同盟国である日本と韓国、そして新興国として影響力を増している中国やインド等との距離感を適切に測り、それぞれの国に配慮したしたたかな米国の外交戦略が展開され始めたと言えよう。

しかしその中でも、改めて突出した米中の「蜜月時代」の深まりを感じない訳にはいかない。今回のオバマ大統領の中国訪問では、12年ぶりに共同声明を発表し、両国が今後、「戦略的信頼」を構築、進化させると宣言。気候変動や核廃絶など地球規模の課題解決に米中が主導的な役割を果たしていくことを明確にした。米中G2時代の到来を感じさせるオバマ大統領の中国訪問であった。

米中の間の関係は、米国独立直後の1784年、商船エンプレス・オブ・チャイナ号が広東にたどり着き、通商交易が始まった頃に遡ることができる。1853年ペリーが浦賀に来航するはるか前であり、明治維新よりも80年以上前から米中の関係は始まっていたのである。そしてその関係は今日まで、常に「対立と融和」を繰り返してきた。第二次世界大戦で米中は、同盟国として共に日本と戦い、朝鮮戦争では一転して両国が戦火を交えた。ベトナム戦争でも両国は大軍を現地に送り込んで一触即発の状態に陥る。また米国の台湾国民党政権への支援も米中の対立を激化させた。しかし大きな転機は、1969年「反共産主義者」として登場したニクソン大統領がキッシンジャー補佐官を極秘訪中させて訪れた。そして自ら1972年に訪中して米中和解が実現したのである。

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2009年11月17日 (火)

オバマ大統領政策演説の狙い

11月14日、サントリーホールでオバマ大統領のアジア政策に関する演説を聴いた。オバマ氏の演説を直接聴くのは、昨年6月以来2回目である。実際にテレビ放映の方が大統領の顔の表情まで含めてよく分かるし、音声もはっきり聴こえるのだが、ライブでしか味わえない臨場感や楽しみがある。特に体全体から伝わってくる話し手の意志やエネルギーは、直接会場に足を運ばないとわからない。約30分の演説の中でオバマ大統領がどこに力点を置き、どんな思いで喋ったのか。

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今回の演説の最大の意義は、大統領としてアジア政策の全体像を初めて明らかにする演説を北京ではなく東京で行い、米国がアジア・太平洋国家として、日米同盟を基軸にアジアに深く関与していくことを宣言したことにある。これ自体は極めて重要なことであるが、オバマ大統領の来日は当初より1日遅れ、鳩山首相が不在であるにもかかわらず、APEC首脳会議の初日を欠席してまで何故、東京で政策演説を敢行したかったのか。ホワイトハウスがこの政策演説を正式に発表したのは、9日になってからであり、米国大使館は慌てて政策演説の準備を行った様子がうかがえた。それでも実施したかった政策演説の狙いは何だったのか。

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2009年6月30日 (火)

米国知日派、政権交代でも日米関係は楽観的

6月25日、米国下院外交委員会アジア・太平洋・地球環境小委員会で「変化する日本の役割」と題する公聴会が開かれました。証言者として登場したのは、駐日大使の呼び声が高かったジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授、日本政治の裏事情を知り尽くしているマイケル・グリーン戦略国際問題研究所日本部長、そして日本の安全保障に詳しいケント・カルダー・ジョンズホプキンズ大学高等国際研究大学院教授等4名。公聴会では知日派の論客と日米関係に詳しい連邦議員とのやりとりが行われ、メディアの関心を引くような発言は無かったものの、今、ワシントンで日本がどのような政治的ポジションにあるのか把握する上で重要な手がかりになったものと思われます。

 一般論として、日米関係に携わっている専門家は、議会において日本に対して敢えて厳しく批判し、あるいは日本の存在感を低めるような話はしませんので、その分を割り引いて聴く必要があります。しかし公式発言であるが故に、議員や専門家としての見方や考えは、その時々の日米関係を考える上で極めて重要です。詳細な議事録をすべて読んでいるわけではありませんが、議論のやり取りや証言者の発言原稿を読む限りにおいて、いくつかのポイントが浮かび上がってきます。

 第一に日米関係は、貿易摩擦時代の日本脅威論からバブル崩壊後の日本悲観論を超え、国民や党派を超えた議会の理解の下で、格段に強固になったと捉えているということです。特に、自衛隊のインド洋沖での給油活動、海賊対策等で日本が同盟国のパートナーとしての役割を果たし、この15年ほどの間に日米協力が格段に進んだことを評価しています。米国のアジア政策では、存在感を増す中国を国際社会に関与させつつも、将来の不確実性を担保する必要はあり、北朝鮮問題等への対応を含め、信頼できる日本と良好な関係を築いておくことは重要であるということです。また地球温暖化や感染症などの地球的課題にも、技術力を持った日本との協力は不可欠であると見ています。これらの発言に目新しさはないものの、日米関係を再確認する上で重要な発言だと思います。

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2009年6月 1日 (月)

GM破綻、驕る者久しからず

 5月31日、米国政府は、クライスラーに続き、ビッグ3の最大手、ゼネラル・モーターズ(GM)が連邦破産法11条の適用を申請すると発表した。政府の緊急融資を決定した昨年11月、多くの専門家や連邦議員が今日の破綻を予測していたが、その時点での「破綻宣告」は政治的には難しかった。しかしこれで米国の自動車産業は、再生に向けて新たな段階に入ることになる。

 1973年8月、米国ミシガン州ディアボーンにあるフォードの自動車工場を見学したことがある。見学の最初の工程は、停泊している鉄鉱石を満載した船であり、そこから製鉄が始まり、徐々に様々なパーツが作られていった。そして最後は、組み立てられた完成車が工場から出てくる、正に完全な自動車の一貫工場であった。ガイド役のアメリカ人は、これがアメリカ経済を支える自動車産業の強さであり、日本には到底まねできないであろうと、言わんばかりの誇らしげな態度であった。

 

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2009年5月29日 (金)

北朝鮮はオバマの対話路線を見誤ったか

 何故、北朝鮮はこのタイミングで核実験に踏み切ったのか。北朝鮮にしてみれば、米国を挑発してオバマ大統領の出方を探り、あわよくば二国間協議に持ち込みたい狙いがあるようだが、それはオバマ大統領の「対話路線」を見誤っているのではないか。昨年、出会ったワシントンの北朝鮮専門家は、「私が金正日であれば、非核化に向けて米国に協力する素振りを見せながら時間を稼ぎ、『対話路線』で柔軟な対応を示すオバマ政権から経済協力など、『実』を取れるだけ取るであろう。いたずらに強硬路線に出ても、むしろ議会などの反発を招くだけであり、そうなればオバマ政権も二国間協議には応じにくくなる」と述べたことを思い出した。私はこの意見に当時は全く同調したのだか、北朝鮮は今、全く逆の路線で動いている。

 猫(国際社会)も鼠(北朝鮮)に本気で噛まれれば、最後は襲いかかるしかない。ここにきて、鼠に睨みつけられたロシア猫が傍観姿勢を改めるかもしれず、それを見た中国猫も、やおら起き上がって襲いかかる姿勢を取った時に、鼠はどのような態度を取るのか。果たして鼠は本気で死を覚悟してでも最後の抵抗に出るのか、それとも戦意を喪失して白旗を揚げるのか。猫の集団は、その辺の見定めができていないし、まだ本気で噛まれた時に、鼠に襲いかかる覚悟もできていない。

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