「核密約」調査は大きな一歩前進だが
この度の外務省による日米密約に関する調査報告は、遅かりしという印象は拭えないが、政権交代がなければ果たしえなかった。そして「公然の秘密」となっていた密約の実態を相当程度明らかにし、今後の外交文書の記録や公開のあり方等、いくつかの点で教訓を導き出したことは大いに評価できる。しかし一方で、日米安保の意義、非核三原則と核の傘との関係等、今後の我が国の安全保障を考える上で、自民党政権時とは違う健全な安保議論に結びつけようとする踏み込みは無く、引き続き根源的な課題を残すことになった。
今回の調査は、政権交代による効用の評価として、密約の検証自体を実施したことに加え、「いわゆる『密約』問題に関する有識者委員会報告書(以降、報告書)」の内容において、明白な公文書が無くても「広義の密約」という概念を持ち込み、暗黙の了解や合意があれば密約は存在すると規定したことである。これまでの政権であれば、有識者の第三者委員会とは言え、政治的圧力により日米で合意した公文書が日本で発見されない限り「密約」とは認定しなかったのではないかと思われる。「報告書」の冒頭で、座長である北岡伸一氏は、「決定的な証拠がなくても歴史研究者として確実に推定できることについては、踏み込んで判断を行うべきだと考えた」と記している。歴史を解釈する上で、このような考えに基づき、報告書を取りまとめた北岡氏のリーダーシップに心より敬意を表したい。ちなみにこの「報告書」そのものが戦後の日米外交史を知る上で貴重な資料と言えよう。
その報告書の中で、1点だけ腑に落ちないのは、佐藤首相とニクソン大統領が署名した沖縄への核持ち込みに関する「合意議事録」の扱いである。「報告書」では、佐藤家で発見されたが、後継内閣には引き継がれておらず、効力はないので「密約」には当たらないとしている。しかし仮に外務省が関与せず、それを裏付ける資料がなくとも、その文書は両国首脳が署名した「国際法上での合意(栗山元外務次官)」であり、一時的にせよ両国を拘束する密約であったことは事実である。そして仮に引継がれなかったら、「合意事項」は失効するのであろうかという疑問がわいてくる。もしアメリカ側で引継がれていたら、効力は継続したのであろうか(現に米側は継続していると思っているかもしれない)。少なくとも「国際上の合意」が文書の保管場所や引継ぎの有無で反故にされていいとは思えない。
外交や安全保障の性格を考えれば、時の政権の責任において「密約」の存在は不可避である。しからば、いつ、どのような形で国民に密約の存在を明らかにすべきか課題となる。そしてその際に、本当にその密約の存在が日本の国益や安全保障にかなったのかどうか検証されねばならない。我々はその歴史的検証から教訓を引き出し、それを未来に生かしていくしかないのである。
密約を結んだ背景には、日本国民の強い反核感情があり、時の政権の苦悩があったことは事実である。アメリカ側の核政策、特に核兵器の配備を肯定も否定もしない「NCND政策」と、日本側の「核の抑止」に対する期待や「非核三原則」とを両立させるには、ある意味で「曖昧さ」を保つことが必要であった。しかし冷戦が終結、91年には米軍艦船から戦術核の撤去宣言があり、アメリカでその密約の存在を裏付ける公文書が公開された後も、政府は国民に嘘を言い続けた。しかしほとんどの国民は、政府の発言を信じなかった。むしろ国民の方が現実的な国際政治に敏感であり、日本に核は存在したとしてもおかしくないと思っていたのである。少なくとも政府は、アメリカで文書が公開された後、その核密約の存在を認め、何故、それが必要であったかを国民に説明するべきであった。そこから国民は学んでいくのである。野党の追及や国民の一時的な不支持を恐れた自民党政権や官僚の保身としか思えない。
今回の密約調査は大きな一歩である。しかし、この調査結果を将来の日本の安全保障にどう結びつけ、どのような日米同盟にしていくのか、全く議論がなかったのは残念である。鳩山首相や岡田大臣は、日米関係に影響を与えないように配慮し、国民に対しては「非核三原則」の堅持を述べるだけであった。これでは日本の安全保障に進歩はない。
「真の非核三原則」とは、核の傘には入らないことを意味するものである。しかし日本の安全保障の為には、当面の間にせよ「核の傘」が必要であると判断するのであれば、改めてそのことを明確にすべきであり、そのためにはどのような米国との取り決めが現実的なのか、健全な安全保障議論を行うべきではなかろうか。それによって、国民の合意の下で「非核三原則」も必要であれば変更すべきである。国内有権者向けには「非核三原則」でいい顔をしながら、一方で米国の「核の傘」を当てにする今の姿勢を続けるだけでは、米国の鳩山政権に対する不信感は増すだけである。岡田大臣も「アジア非核地帯」が理想ならば、オバマ大統領の「核兵器なき世界」のように、時間がかかっても、一歩でもそれに近づけるために、今回の調査報告をどう結びつけるのか、発言して欲しかった。
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